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久々のラティノとの無礼講フェスタが思い出させた詩「壁が透けていく」このキトのアパートではレズビアンであることなど当たり前。

久々のラティノとの無礼講フェスタが思い出させた詩「壁が透けていく」
英子はエクアドルのやきものの村巡りを始めた頃。
このキトのアパートではレズビアンであることなど当たり前。
このアパートでの共同生活から絞りでた恵子の詩。詳細は詩のあとに。

壁が透けていく

もしも 私たちに
どんな偏見も距離も違いもないのなら
味噌汁と キューバのソンのリズムと ドイツの黒パンの
遠いそれぞれの国について
つば飛ばし 耳澄ましてたがいに語る必要もない

もしも 溢れるほどこの国の言葉を身につけているのなら
とりとめのない会話の折々に
何回もカナリアのように喉をふさいで
静けさに沈む必要もない

もしも 鍋のフタまで
真夜中に無防備に踊らなかったなら
翌日の午後の一時間半を費やして
台所の米の一粒一粒ごとに
そのフェスタの馬鹿騒ぎの底へと戻る必要もない

もしも ジュズつなぎの友情と胃袋が
とどまることない世界への生きた意思がなかったら
余分な鍋のいくつかも
禁じられた本の中のなまなましいフレーズも必要ない

もしも 閉ざされたあの東洋の島国の人々の中に
たった今つらなる船出の声を聞かなかったなら
スペイン語のリズムが国境を越えてつらなる国々の
人々の奔放さの中に潜む底深い絶望と
思いがけない狭さに土曜の午後
ゆっくり立ち止まる必要もない

もしも バスの中の人々の逆光のシルエットに
日曜の公園からくりだす
肩くんだ家族連れの見覚えのあるつらなりに
色とりどりの通りの看板のアルファベッドの洪水に
遠い記憶が瞬時に重なっては
透けに透けていく世界のシルエットがなかったら
どこに生きていても私は同時にうれしく
同時に悲しいと言う必要もない

もしも私が私でなかったら
人々が人々でなかったら
世界が世界でなかったら

壁の向こうへとくりだす
痛みもよろこびも
必要ない

1998年10月  米谷恵子

エクアドルの共同生活のエピソードより     2003年3月 米谷恵子

 ここでエクアドルの最高にハッピーな2ヶ月の共同生活の最初に味わった、予想外のぶ厚い壁への私の体当りから生まれた詩を紹介したい。
 さてその共同生活は、きわめて面白くなりそうな予感を孕んでいた。
 にもかかわらず、私たちが住むことになった部屋に、ずうっと以前に住んでいた日本人女性がもたらした先入観、すなわち「共同の台所で自分が所有する卵の一つ一つに名前を書くような日本人の習性」へのキューバ人女性の警戒心から、最初は実に気まずい滑り出しとなった。
 一緒に住む以前から、共同生活へのワクワクした気持ちを起こさせたそのキューバ人女性の名はリディセという。大柄でよく通る声の持ち主の彼女と結んだ友情は、今も揺るぎないものとして続いているが、そこに至るまでには谷や峠をいくつか越える必要があった。
 そんな険しい峠をのぼりつめる一歩手前の、リディセとの私の会話のただなかでのことだ。
 彼女は「私もラテンアメリカ人だから…」と思いがけずもらして、ちゃんとにやるべきことをやり過ごし、生き抜くためだからと、ただ計算高くなってしまうような自分のいい加減さを、はっきりと認める。一方、私は私で「私も日本人だから…」と口をついてしまい、妙に融通のきかない大まじめな自分の一部分を認めてしまう…といったコミュニケーションのある段階まで達した。
 ラテンアメリカ人らしさや日本人らしさの向こう側まで歩こうとしている、とらわれないそれぞれの気性やプライドや人生の幅や深みがあったからこそ、普遍的とも、一見ステレオタイプとも言える自身の一部分を、思いがけずあっさりと認めて、その先へと歩けたようだった。
 そうして、私たちは峠を越え、山を下り、広い野原へとたどり着いた。
 実は、共同生活初期に味わったこの予想外の大きな壁に頭を悩ました私は、彼女たちと以前暮らしていた別の日本人女性に相談を持ちかけたのだった。若い彼女はこう忠告した。
 「私はリディセたちを同じ人間だとは思っていないわ。フェスタの騒ぎ方だって常軌を逸しているし、日本人と同じ人間だと思っていたら、やってられないのよ。」
 スペイン語の習得が目的で首都のキトに滞在していた彼女は、とてもスペイン語が達者だった。キューバ人たちと一緒に踊る時は実に楽しそうにしていたし、おしゃべりも早口のスペイン語でまくしたて、リディセたちにどんな違和感も感じさせていないようだった。
 にもかかわらす、「同じ人間と思っていない」とは一体何なのだろう。ここから私の思考はスタートした。
 共同生活には、リディセの踊り仲間とも言うべきドイツ人女性シモーネもいた。彼女のスペイン語は私たちよりよほど達者だった。

「ストライキ」から生まれた詩

 共同生活を始めた当初、リディセたちとの出会いの始まりを楽しみにしていた私たちだが、そのチャンスは幾度もそのチャンスの方からすり抜け逃れていくようにさえ感じられた。踊りに行くにもけっして私たちは誘われず、もぬけの殻のアパートの居間で、共同生活を始めた甲斐のなさに英子と二人、さびしさをかみしめた。私たちはリディセにとって、空いた部屋の家賃をちゃんとに払ってつないでくれる、大事な金づるの日本人にすぎない、と思いたくはなかった。
 やがて私は「ストライキ」を起こした。そつなく距離を保ち、私たちを相手にしない共同生活の相手をこちらも相手にしない、という選択だ。自室への「引きこもり」とだんまり戦術を行使した。
 そのプロセスで、またまたラテンアメリカ人が大好きなフェスタもあった。リディセに惚れていたアマゾン地方出身の肌の浅黒いエクアドル人男性が深夜、台所で圧力鍋を使って料理をして、その使い方を心得ず、フタがぶっとぶ事故もあった。高価な圧力鍋は高地だけで使われていた。
台所に散らばったご飯粒を翌日の午後、一粒一粒拾って掃除したのは私だった。
 上記の詩は、そんな共同生活の最初の一週間の谷間とも言うべきエピソードから生まれた。そもそもはスペイン語の文型練習の副産物。「…でなければ…であろう」といった文型。
 エクアドルを発つ間際に持たれたお別れフェスタでは、この詩のスペイン語訳をリディセと共に試みて、日本語とスペイン語で交互に、私とリディセが朗読するという挑戦もした。だから、二つの言語になったこの詩の存在そのものが、詩も書くリディセとの友情の賜物であると言ってよい。
 そのフェスタでの朗読をあたらめてテープで聞くと、なつかしいリディセの深く通る声が響いて、朗読後に、
「この詩は恵子のストライキから生まれたのよ!」
と大笑いする彼女の様子に触れることができる。フェスタに集まったエクアドル人の聞き手が、「ストライキって何?」と訊くや、「この家の秘密よ」とくすくす笑いが止まらない彼女も、ストライキの時には真っ青だったものだ。
 ちなみに、リディセが「経済難民」としてキューバを脱出し、南米で一番物価が安く暮らしやすいというエクアドルに、何のあてもなく住みついて、通りの物売りなどの職を転々としたあげく、スペイン語教師になるまでの物語を、私は共同生活の後半にインタビューして聞き出すことができた。
 中国の文化大革命を描いた小説「ワイルドスワン」のスペイン語訳の読後感も、キューバ人にとってのゲバラ像との重なりなど含めて、聡明なリディセらしく興味深く語ってくれた。この貴重なインタビューを約束通り生かすべく、どこかに発表したい。
 なお、リディセには、お別れの時、キューバでは発禁になっているキューバ人女性作家の高価な本を2冊思い切ってプレゼントした。キューバの外でなら読めるこういった本の存在の重みは、キューバ人が集まるキトのライブハウスでの、キューバの国民的歌手、シルビオ・ロドリゲスの「あなたに贈る唄…Te doy una cancion」の自然発生的大合唱の迫力とも重なって、エクアドルのキトにおける出稼ぎキューバ人の状況をなまなましく映し出して、強烈な印象を私たちに残したものだった。
        2003年3月15日

2003年春発行『クスコからの手紙4号』
「なぜベロ亭の二人がするのか…パラドックスの二つ目」より
ああ、行きたくなった。ペルーの隣りのエクアドル。
赤道直下だけれど、標高2000メートルゆえに、寒暖の差が一日のうちで著しく、朝が春、昼が夏、夕方が秋、夜が冬の、あの穏やかな人々が端正に生きるラテンアメリカでは、まれなるやさしく美しい国へと。
2016年3月3日午前零時を過ぎて書き写し終える。
困ったな、ワープロ時代のものは。
Soul free facilitater 米谷恵子
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| 詩の世界から | 02:03 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

いいねえー。恵子のラテンアメリカ関連の詩はまたことのほかノリのいいものが多いね。
一皿一皿が複雑で味わいがあって栄養たっぷりで、
でも胸やけせずにおかわりしたくなるんだ。
詩がうまれたエピソードとともに秀逸です。
ラテンアメリカ滞在記本をもとむ。

| KAGE | 2016/03/06 09:56 | URL |















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